ヒロインは気狂い
俺は女関係で死ぬほど苦労してきた。
モテないわけではない。
俺には同性人気こそが本物の証という確固たる信念がある。時には女にドン引かれようが、男社会内での称賛を追い求めてきた、典型的なホモソーシャル人間だ。それでも尚、女に困ったことはない。
だから、苦労してきたというのは、供給不足のことではない。
今思えば小学生の頃から、俺の手に負えない、何を考えているのかすらも分からないような、ミステリアスな美人に惹かれてきた。
もちろんコナンなら蘭より灰原派だ。
幸か不幸かエヴァンゲリオンを初めて観たのが大学時代だったが、思春期に観ていたらと思うと恐ろしい。救いようのない綾波レイオタクになっていただろう。
何を考えているか分からない。
周りと上手く馴染めておらず、そしてそれを気にもしていない。
返答のセンスや語彙が独特で、音楽の趣味も変わっている。
男にも興味がなさそうだ。女にも興味がないんだろう。
──結婚を見据え始めて冷静になった、今の賢い俺ならこんなのは確実に選ばない。どう考えても地雷だからだ。いや、地雷ですらないだろう。これは爆弾が地面の上に丸出しで置いてあるようなもんだ。
ただ、小学生から高校までの俺はずっと、こういう女が好きだった。
そして、何を考えているのか分からないという、その子を好きになった理由を原因として、別れた。
安定とは程遠いが、どれもすぐに別れたわけではない。主に俺が振り回される形で、最短でも1年半は続いた。
──言っちゃ悪いが、ヒロインはどいつもこいつも、とてもじゃないがまともじゃない。人格や言動、あるいはその両方がメチャクチャだ。
それでも溢れる魅力で周囲に人は集まり、それを掻き乱す。
俺はこういう女に振り回されるのが好きで、それがフィクションの中だけで済めばよかったが、現実に持ち出してしまった。
その結果、異常な喜怒哀楽の女に慣れてしまい、普通の女と付き合っても退屈してしまうようになった。
俺の女難の根源は、きっとこれだ。
ただ、漫画やアニメのヒロインの主流派はもう一つある。
「理解のある彼女」タイプの、とにかく主人公の安息の地であり続けるような女だ。
…こっちを好きになっていれば良かったんだよな。